植民地朝鮮の初等教育機関における「国語」教育
右の表は、内地で発行された「国語読本」と朝鮮で発行された「国語読本」(日語読本)の発行年について整理した表です。
併合前、朝鮮では、当然のことですが、「国語読本」は朝鮮語の教科書を指し、『日語読本』が日本語の教科書でした。この『日語読本』には、三種類の異本が確認されています。ですが、多くの研究は、その3種類の教科書の違いを確認しておらず、内容分析に関しては、非常に問題の多い研究となっています。異本、というべきかどうか、内地挑戦ともに、「符号」という欄を設けています。これは、奥付に示されていた符号で、内地のものは一回転目のひらがなはすべて変体仮名、二回転目からは、今日使われているひらがなです。朝鮮のものは、すべて変体仮名でした。この奥付にある符号が異なる場合、版が異なっている、と思われます。内容に違いがあります。上田(2000)の博士論文では、この符号による改訂を「部分改訂」、発行時期の区分を「全面改訂」とし、従来の研究では改訂の主目的が皇民化の教科のように分析されていたところを、時代の変化による料金や制度の変化、日本語の変化などを反映した改訂があるということを事例を明確に提示し明らかにしました。
また、内地と朝鮮のそれぞれの読本の内容についても、その一致率、を調べました。
タイトルの一致率、は、内容の一致率とは異なります。内容の一致率を検討した際に、複数の解決しなければならない課題にぶつかり、今日まで、結論が出ない状況で研究を進めています。
課題とは以下の項目です。
1.国語の教科書、「言語」学習用の教材として見た場合、例えば、歴史的仮名遣いと表音的仮名遣いの本文は、教育内容の異なりから「異なる」と判断しなければならない。
2.国語の教科書、「国民」的素養を身につける教材として見た場合、倫理観や皇民化思想などが同じであれば、「同じ」と判断しなければならない。
3.挿絵も、有無であれば比較は容易だが、一方が色付きの服、一方が無地の服であった場合、「異なる」と判断せざるを得ない。
などです。そこで、ここでは、内容を無視し、タイトルのみを取り上げ、そのタイトルも音声にした場合に同じである、ということを条件に、内地と朝鮮の読本の一致率を調べました。資料の収集の問題から、ともにそろっているものからのカウントです。そのため、今後、すべての時期の教科書がそろった場合、若干の数値の変化はあると思います。ですが、このグラフを見ていただいてわかるように、タイトルの一致率は年を追うとともに高まっていく傾向が見られます。国定第三期の時期は、大正デモクラシーや、三一独立運動の影響で、朝鮮独自の教材が増えたのではないかと推測しています。