必読
版の違い
植民地朝鮮で使用された『国語読本』には、部分改訂と全面改訂の二つの改訂があります。
全面改訂で時期を区分していますが、同じ時期の中でも小規模の改訂が断続的に行われています。
上田(2000)ではその版の違いを詳細に取り上げました。
先行研究では、植民地朝鮮の教科書分析を行う際に、書名・奥付の発行年で本を同定しようとしていますが、それには問題があります。
版の違いは、別の所に記号として示されています。
それについて、ここでは簡単にご紹介したいと思います。
左と下の間違い探し
左の写真と下の写真、どちらも朝鮮第四期の国語読本である『初等国語読本』の巻一の奥付です。
違うところはどこか気づきますか?
使用年度符号
中央に『初等国語一」と□で囲んである部分があります。この下に見られる文字が使用年度符号です。上田(2000)では、収集した読本の奥付を調べた結果から、↑の表のような使用年度の対照表を作成しました。
文字は変体仮名です。変体仮名については、こちらをご覧いただければわかるかと思います。(人文学オープンデータ共同利用センター)
上の変体仮名は「れ」右の変体仮名は「た」に当たります。
この使用年度符号でしか確認できない版の違いは、決して小さくありません。
例えば、朝鮮第三期読本の「を」の第11巻では、飛行機の発明者はライト兄弟と記述されていますが、「よ」の第11巻では二宮忠八とされています。ライト兄弟やオットーリリエンタールの名前も見られはするのですが。
つまり、版の違いを抑えていない研究は、資料を十分に確認できていない研究であり、そこに示された分析も、多数ある教科書の中の一部を見たら、という部分的な分析に過ぎないと言えます。
上述した飛行機の発明者についても、ライト兄弟と記述されている教科書と二宮忠八と記述されている教科書とでは、分析結果が大きく異なるであろうことは容易に推察できます。
自分がどの資料を基に記述しているのかを明確にする必要性を理解していただけたでしょうか。